最高裁判所第一小法廷 昭和27年(オ)139号 判決
自作農創設特別措置法四七条の二にいわゆる「処分のあつたこと」とは、処分の成立したことではなく、処分が該処分を受ける者に対し効力を発生したこと、すなわち本件においては上告人に対し告知のあつたことを指すものであつて、言いかえれば処分が訴願に対する裁決である場合には訴願法一五条、自作農創設特別措置法施行規則四条二項に基き、裁決書の謄本を訴願人に送付し訴願人に到達したことをいうものであると解するを相当とする。そして、一件記録によれば、本件裁決書の日附は、昭和二二年一〇月三〇日となつているが、その裁決書の謄本が上告人に送付されたのは昭和二三年三月一二日以後であり、本件訴状が第一審裁判所に提出されたのは同月三日であるから、該訴提起の当時には未だ裁決は効力を発生せざるをもつて訴の提起は不適法であつたが、その後裁決の送達により裁決が効力を発生した以後は前記瑕疵は治癒せられ訴の提起は適法となるべきである。さらにまた本件訴願の提起があつたのは昭和二二年一〇月二日及び三日であり、また、訴願裁決書の謄本が上告人に送達されたのは前述のごとく昭和二三年三月一二日以後であつて、訴願の提起があつた日から三箇月を経過したものであるから本訴提起後施行された手続法であり裁判時法である行政事件訴訟特例法二条により本訴の提起は適法なものと認めるのが相当である。されば、何れの点よりするも本訴を出訴期間経過後になされた不適法なものとした原一、二審判決は失当であつて破棄を免れない。
よつて、民訴三九六条、三八八条、三八九条により裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤悠輔 真野毅 岩松三郎 入江俊郎)
上告代理人弁護士緒方鉄次の上告理由
原判決は昭和二十二年法律第二四一号自作農創設特別措置法の改正法律第四七条の二第一項及び附則第七条、同法第七条第五項施行規則第四条第二項の規定の解釈を誤つている。原審の認定に依れば被上告委員会は昭和二十二年十月三十日訴願裁決を為しており、成立に争のない甲第一、二、三号証に依れば右裁決書の謄本は訴外中郷村農地委員会を経由して昭和二十三年三月十一日以後に上告人に送付された事が窺知される。然らば右送付は自作農創設特別措置法施行規則第四条第二項の「自作農創設特別措置法第七条第五項の規定により都道府県農地委員会が訴願の裁決をしたときは都道府県農地委員会は遅滞なく裁決書の謄本を訴願人に対して送付しなければならない」という規定に違反するものである。而して上告人本人尋問の結果に依れば昭和二十二年十月三日訴願書提出以来、数回訴願の結果を被上告委員会に照会したが回答がなかつたので裁決に手まどつていると善意に解し、そのままにしていた事が認められる。
原審は「たとえ控訴人において、その主張のように被控訴委員会の右処分のあつたことを前記法律改正前には知らなかつたものであり、且つ知らなかつたことについて正当な理由があるとしても、右行政処分の取消を求めるには改正法律施行の日である昭和二十二年十二月二十六日から二箇月以内の昭和二十三年二月二十六日までに出訴しなければならない筋合である」旨論じているが右原審の見解は実状に則しない誤れるも甚だしいものと謂わねばならない。原審の様な見解を採るとしたら国民は農地関係では殆ど法の救済を受けられないであろう。即ち都道府県農地委員会が裁決の日を通知せず裁決書を裁決の日から二箇月後に送達しさえすれば行政訴訟をおこされる心配はないことになる。これで好いものだろうか。
自作農創設特別措置法第七条第五項は訴願裁決を為すべき期間を規定しているが複雑な事案はかかる短期間に裁決できるものでないので裁決には日時を要し、右規定は事実上訓示規定として取扱われた事は公知の事実であり、訴願裁決の為される日は予め訴願人に通知されず訴願人不知の間に為されるから訴願人としては裁決書の送付を受けなければ訴願の結果を知り得ないのである。
右の次第であるから、出訴期間に関する前示法条は裁決の日を出訴期間内に知り得た場合のみ適用あるもので、本件の如く出訴期間経過後に訴願の裁決書が送達せられ始めて訴願裁決の為されたこと並びに裁決の結果を知り得た場合には適用されないものと解すべきである。換言すれば適法なる訴願裁決と謂うには、出訴期間内に訴願裁決書謄本が訴願人に対し、送付されたことを要するものと謂わねばならない。これを要するに本件訴願裁決は無効の行政処分であるから出訴期間の制限に拘束されないものと謂わねばならない。
而して被上告委員会としても本件訴願裁決書は本件訴訟提起後而も出訴期間経過後に中郷村農地委員会を経由して送付された事実を熟知しておるので、原判決の様な強引な判決は予想もせず本案について争つていたのである。当事者間に於て出訴期間の点について争なく訴を適法と認めている場合には、本件裁決が裁決の日を表示されている日以後になされた事を自認するものであるから、裁判所は擅に職権を以て訴を却下すべきもの
叙上説述の通り、原判決は法律の解釈を誤り軽々しく訴を却下して本案の審理を為さないものであるから、民事訴訟法第三九四条に基き上告に及んだ次第である。 以上